ロロノア家の人々〜外伝 “月と太陽”

    “今日も元気!”


 
 ともすれば漆黒に限りなく近いほどもの深い色合いを保つこともある海の色だが、ここいらは暖かい海域、陽の光もふんだんだからか。特に浅いということもなかろうに、正青の軽やかさでその表が波打つ。愛らしい外観のキャラベルの、その軽快な船足が蹴立てる波しぶきと競い合うように、少々遠目の沖合に距離を置きつつもしっかと併走する存在があって、
「いやっほぉ〜〜〜♪」
 年の頃は十代後半というところか。見るからにやんちゃそうな少年を背に乗せた、ちょっとした漁船くらいはあろうかという巨躯をした1頭のイルカが、流線形の躯をなめらかに疾らせて波間を駈けており。時折うねりの丘へと乗り上げては、その身を宙へ高々と躍らせるごとに、風を切っての爽快感へと少年がそれはそれは御機嫌だという歓声を上げる。短めに刈った緑の髪に、ちょっぴり利かん気も強そうな面差しをしていて、だが、現在只今は楽しくって楽しくってしょうがないという表情を隠さずにおり、
「いいなぁ〜。」
 あまりに近すぎるとこっちの船が波を食らって引っ繰り返りかねないからと。それなりの間隔を置いた沖合を、併走しつつもはしゃぐ彼らを船端から臨み、みかん色の髪をした少女が溜息混じりの憧声を洩らした。結構な幅のある船縁へと凭れもっての頬杖をつき、手にしていた双眼鏡をこんと置く。物に当たってもしょうがないと分かってはいるから乱暴な扱いはしなかったものの、それでもその所作にも不機嫌そうな色は相当に濃く。せっかくの愛らしいお顔も膨れがち。そんな様を見て、
「まぁまベルちゃん、そんな不貞腐れるもんじゃないの。」
 柔らかい声をかけたのが、短いつばにも傾斜のある、頭巾のような帽子のその端から覗く、淡い銀の髪の裾を潮風にはためかせている痩躯の青年。風に飛ばされぬようにか、指の長い手でもって、帽子の腹の部分を軽く押さえている恰好が、なかなか様になっている彼こそは、
「フレイアさん。」
 あのイルカの直接の飼い主…というかお友達、フレイア=バスクードという青年だ。仲間内へと加わったのはつい最近だが、一堂の中、一番に上背のある年嵩なお兄さんで。そのお年の分だけ色々と、知識もあれば懐ろの尋も深く、人あたりもソフトな、物腰の優しい人物であり、
「チャッピーに乗るのは見てるほど簡単じゃあない。」
 背びれに掴まってりゃあいいってだけのことと思えるかも知れないけど、その掴まりどころだって大きくって握りにくいし、皮膚も水を含んでて滑りやすいから、足元だってなかなか踏ん張れない。
「ただでさえそんな相手で、しかもあれだけ大きいと。どんなに遠慮して動いてもらえても、1かきで進む速さにはあっさりとその手をもぎ取られるのがオチだからね。」
 話はだいぶ外れるが、アニメでお馴染みの巨大ロボット、あれに搭乗して操縦するとなると、操縦席にとんでもない振動が襲い掛かるのをどう回避するのかが一番の問題だというのをご存じか? ラクダのギャロップ、象の背中、高さのある大きなものほど“歩行”だとどれほどゆさゆさ大きく“縦揺れ”をすることか。作業の種類にもよるけれど、タイヤやキャタピラの安定を捨ててまでの巨大ロボット二足歩行には、実はあんまり益はないのだそうで。
「俺だってあんな風に背中に乗ったことは数えるほどしかないんだよ?」
「…そうですってね。」
 彼と知り合い、一緒に航海することと運んだ島にて。じゃあ荷物を移させてもらうよとお兄さんが足を運んだのは、埠頭の外れにあった、ヨットや小型船舶用の桟橋の方。彼がそこまでの航海に使っていたのは、ちょっとした湾内移動や船遊びに使うような小さな帆掛け船であり、それをあのイルカさんが引いてくれての、お呑気な航海をしていたというから………彼もまたなかなかに豪気なお人には違いなく。そんなフレイアでも、背中にまではあんまり乗ったことがないという。
「立ってられるのだって、俺には驚き。ジャンプなんて以っての外だ。絶妙に呼吸を合わせてでないと振り落とされる。」
 しかも、あの速さであんな高さから落とされるってのはサ。ちゃんとした覚悟あっての飛び込みででもない限り、固い石の上への墜落と変わらない衝撃があったりするからね。けろりと物凄いことを言う彼へ、
「そうなんだ。」
 咬み砕いての説明へ、今やっと納得したらしいお嬢さん。
「だから、意地悪から“ベルちゃんは乗せられない”って言ってる俺たちじゃないんだよ?」
 と。ベルと同じように船端へと腕を乗っけて肘をついた格好で、切れ長の目許をやんわりと細め、にっこり笑った彼ではあったが、

  「でも。あいつが乗りたいってさんざ駄々こねたのは止めなかったわよね。」

 怪我しても良いって訳? そんな風に、ちょいと意地悪にも揚げ足取ったような物言いをしたベルちゃんだったのは、やっぱりちょこっとは口惜しかったからだろう。もしかして か弱き女の子だからという一線を引かれているのならば、彼らに比べりゃあ非力なのも肝っ玉が細かろことも残念ながら事実ではあるが、それでも…諸々の事情や背景は分かっていても、やっぱり何だか面白くない。所謂“レディファースト”が当然とされて育って来た“箱入りお嬢様”でありながら、守ってもらえて庇われて当然…という方向へではなく、何でそこで男女の差別をするのよと、むっかりくる負けん気の強さ、勘気高さが、偶にながらも如実になることがある彼女だそうで。
「ありゃりゃ」
 まともなお返事も出来ないまま、これは一本取られましたねなんて、してやられたという顔になると。うふふんと笑ってのやっとのこと、相好を崩したお嬢様。
“…そういや、衣音くんが言ってたっけ。”
 彼らとしても気持ちは判るだけに、あしらうのが難しいと苦笑していた黒髪の航海士くん。まだ十代の彼らもまた、補給の買い物にと立ち寄った先で、こっちをよく知りもしない大人から通り一遍なガキ扱いされ、何とも言えず悔しい時がなくはなかったから。
『何にも知らない馬鹿から馬鹿者扱いされる悔しさってのかな。』
 言っとくけどこっちは、あんたの後ろに貼ってある“○○海賊団”を打ちのめして捕縛済みに追いやった身なんだぞなんて。被害に遭ってた島の出張所からもらった感謝状持って来て、懇々と言って聞かせてやりたくなるけれど。そんなのどうせ信じやしなかろし、そんなことに焦れてる事自体、まだまだ小者なんでしょね…なんて、しょっぱそうな苦笑をしてた。
“………。”
 熱くならないで黙っておいた方がいいこともあるとする、割り切りやら何やらを、既に心得てる節のある彼もまた、自分たちからは少し離れた甲板上で、沖合の方を眺めやっている。即妙な物言いでフレイアをやりこめて、でも、肩をすくめただけで、勝ち誇ったようなお顔までは示さなかったベルといい、

  “結構な大人じゃあないですか。”

 暴発することもなくのそんな彼らでいられるのは、もしもも何もなくの絶対。彼らの気持ちを宥めるに足る、心の“拠りどころ”があるからに外ならず。彼らの視線のその先では、年若な彼らのリーダーでもある、緑頭の船長さんを背中に乗っけて、ロデオさながら波の上へとイルカくんが躍り上がるごと。その大きな身体から振り撒かれる水しぶきの1つ1つに、目映い陽射しが弾けては玻璃のかけらみたいに煌めいて。
「いやっ、は〜〜〜っ♪」
 楽しくってしようがないという高らかなお声を響かせるお仲間へと向けられた、しみじみとした表情の、何とも満足げなものであることか。

  “これも一種のカリスマ性、だろか。”

 まだ知り合ったばかりのお子様たち。様々に武勇伝も聞いてはいるけれど、そして…見回したところではまだ、どの子がどう秀でているという甲乙もなかなかつけ難い、ドングリの背くらべにしか見えないのだけれど。なのにもかかわらず、彼らの間には、あの彼をこそ“キャプテン”だとする何かがあるらしい。
「…。」
 まま、そうそう簡単に判ってしまっても面白くはないかと。まだちょっぴり…溶け込むには知らなきゃならない呼吸や何やがあるようだねとの再確認を得て、
「さて。それじゃ、お昼ご飯の支度にかかるよ。」
 背中をうんと伸ばしながらキャビンへと足を向けたお兄さんであり、
「あ、俺も手伝います。」
「ああ。でも、ヤードの確認とかあるんだろ?」
 気を遣わなくても良いよと、飄々とした様子にて軽く片目をつむって見せて。使い勝手にも慣れて来たキッチンへ、足を運んだフレイアさんだったりするのである。





            ◇



 ここは“グランドライン”という特別な航路。その両端をカームベルトという凪の海域に挟まれており、しかもそこは超巨大な海王類が棲処としていて横断はほぼ不可能。そんな壁に阻まれたその上、海域に存在する島はことごとく、特殊な磁場磁力を帯びており、磁石は使えず気候もばらばら。熾烈極まりない航海が待っている“魔の海”とされていて、長らくは“人跡未踏”とされてもいた。
「まあ、今でもあのリバースマウンテンを越すのはなかなか大変らしいから、外海から入る人はそんなにも増えてはいないんだけれど。」
 それでも昔ほどの“魔海”という印象はなくなって来つつある。航海術や船自体の機巧的なあれこれの進歩とそれから…未知の部分の解明や開拓。謎だったから危険だった部分へのメスが入ることで、航海への安全がいや増し、そこへ加えて、獰猛巨大な海王類や悪辣非道な海賊団…自分たちの利のために略奪や殺人に手を染める“モーガニア”の駆逐が重なって、昔に比べれば随分と風通しがよくなった。
「でも、大きな勢力を誇る海賊団は、今でも君臨し続けてもいるのでしょう?」
 牛肉と変わらないほどもの充実ぶりで身のしまったホオダカマグロのスライスへと、薄くパン粉をつけて焼いたカツレツと、千切りキャベツと中濃ソースを風味豊かなライ麦パンにてサンドしたカツサンドに、ニラ炒めの玉子とじ。カップにそそがれるはトマト風味のミネストローネという美味しいランチに舌鼓を打ちながら、ベルが当然至極という口調にて口にしたのは、彼女の父親が“オールブルー”にて開いているレストラン『バラティエU』を訪れる様々な客人たちから得ていた、オーソドックスな所謂“常識”。世界政府も海軍も、そんな事は一切公表してなぞいないけれど。それなりの地位にあったり、広域にて事業や商いをこなす者にしてみれば、忘れず心得ておかなければならないことがそれらの存在。完全なる凌駕よりも手っ取り早い方法手段として、それなりの格を認められた名のある海賊団へ、世界政府は暗黙のうちに“協力”若しくは“譲歩”を求めた。海の安寧を守るため、お互いに無謀や無体をしない。巨大な組織同士の激しくも熾烈な衝突による波立ちに、無辜の小さきものらが巻き込まれ呑まれることを良しとせず…というのが建前の、一種の協定が結ばれていて。そういった面々には“七武海”だの何だのという呼称もついていたらしく。
「さてねぇ。あんまり深間にまでは嵌まってないから、俺も詳しいところまでは知らないな。」
 唯一の“大人”であり、たった一人での航海をしていた身でもあるフレイアだが、世慣れているのと、そういった世間話を何でも知っている、のとは微妙に次元も別なこと。
「まま、侠気あふれる大物が、そういった上層部にいるらしいってのは、よく聞く話ではあるけれど。」
 力が正義の苛酷な世界。どんな手段を講じてでも勝ち抜き生き残った者こそが正義とされ、敗れ去った者はただただ蔑まれ、その名もあっと言う間に忘れ去られる、相変わらずに非情な世界ではあるけれど。懐ろ深く度量の大きい存在こそが、慕われ栄えるのもまた人の世の道理。今現在の、最も海賊王に近いとされてる大物さんたちもまた、さほどに狡猾老練で非情な連中ばかりではないらしく、
「そういうのとのご対面は、この航路のせめて半分は進まなきゃ、あり得ないことだけどもね。」
 第一、まだ海賊団としての名乗りを上げてはいない彼らだ。今のところは相変わらずの、冒険少年団の域を出ない航海中。とはいえ、こちらの正体も知らずにちょっかいをかけてくる海賊共を相手に、子供を相手に恥知らずな…と成敗しては小遣いを稼いでいる、悪辣さではもしかするとトントンかも知れないちゃっかりした連中でもあって。

  “それに…ついこないだなんて、
   手懐けた海王類を操って客船を襲ってた一団の主船を、
   船長さんがそりゃあ見事に一刀両断しちゃってたけれど。”

 彼らの連れのチャッピーが怯えていたからと、それへと腹を立てたそのままに、船の舳先に立った緑頭の船長さん。背に負うた自分の胴より長い大太刀を、すらりと抜いての跳躍一閃。自分へ向けて、恐竜みたいな姿のその大顎をもたげた海王類は単なる足場扱いにし、大きな頭をがっつんと一蹴してやってから。その向こうにいた海賊らの船の上空へと到達すると。高々と宙を渡っていったその勢いを全身へと孕んでの、海域全部を震わせんというほどもの恫喝とともに振り下ろした一太刀にて、二十人強はいただろうクルーごと、相手の船を一刀両断してしまった剛の者。粉砕された残骸の中、何とか浮かんで居残った船端の上へと着地した彼の、鋭い一瞥に震え上がった大人ら目がけ、放たれたはたったの一言で。
『…邪魔。』
 それだけを言い捨てた彼を、蹴り倒された海王類の傍らをサササッと避けて追いついた大イルカのチャッピーが“ひょ〜いっvv”と拾い上げられてからの、さっきも見せてたお友達っぷり。これにはさしもの…結構あちこちで修羅場も見ては来たフレイアも、度肝を抜かされたものではあったが、その船長さんはというと、
「はぁ〜っ、さっぱりしたvv」
 潮水まみれになってたその身を、淡水シャワーで流して来、威勢の良いお声と共にキッチンへと飛び込んで来たところ。ランニングシャツにぶかぶかなズボンという、パジャマまがいの軽装でいると、本当にまだ少年の域を出ていないというのがありあり判る体躯だし、まだ…というより全く全然、水気が拭い切れてない髪へと気づき、
「だ〜っ、こらっ!」
 さっそくにもベルがタオルを放り、それがかぶさったそのまんま、進行方向で待ち構えてた衣音が、頭ごとを鷲掴みにしてわしゃわしゃと拭いてやる。
「いてててて…☆」
 遠慮も何も挟まらぬ、何とも手際よく素晴らしいコンビネーションはお見事で。あんな人間離れした神技を披露しても、日頃の間柄には一向に関与してないところが、考えようによっては物凄い価値観で回っている船ではなかろうか…と。調理台に片手をついて凭れての、もう片手にはカップという格好での傍観を決めているフレイアへ、
「俺も俺も、昼飯ほしいっ。」
 屈託なく強請ってくる彼であり。いきなりのご指名へと弾かれると、
「あ、ああ。すぐだからね。」
 余熱で暖めるためオーブンに入れといたカツを取り出す、今日のお食事当番なお兄さんだったりし。

  『別に、戦いっぷりの巧拙で順位があるって俺らじゃあないですしねぇ。』

 いつだったか、なんでまたあっちの彼が“キャプテン”なのかと。器用で落ち着きもあって、何より航海術を納めてもいる黒髪の彼の方へと、訊いたことがあったのだけれど、
『俺たちは同じ道場でゾロさんに鍛えられて育ったから、太刀筋や何やはさして変わりません。今でこそ戦い方は随分と違いますが、それにしたって…状況が毎回違うこともあって、今のところはどっちが上かって差はまだない。』
 だから、そんなことでの“キャプテンとその他”って訳じゃあないと、クスクス笑って口にした彼であり、
『強いて言えば、こういう、世界を観に行くってことへの言い出しっぺが奴で。俺は、だったら船を動かす術を身につけといてやろって思った。昔っから、計画性のない奴だったから。うん…俺が居ないとって思わされる快感っていうのか。それをくれるのが嬉しい、のかな?』
 それでの“キャプテンと航海士”なんですよと、そんな言いようをした彼だったが、だからって誰へでも柔順になれるような子ではない。こっちの彼もまた、小柄という武器を手にすると、彼自身が刃物にでもなったかのような覇気を帯び、容赦なく押せ押せで戦う姿を知っている。少しでも手ごわい相手に対するときに、お嬢さんを鎧戸降ろしたキャビンへと押し込めるのは。彼女への安全を考えてと同時、自分たちが心置きなく…もしかして相手の命を摘むかもしれないその瞬間を、彼女に見せて怖がらせないためかも知れず。

  “面白い子たちではある、か。”

 はいどうぞと皆と同じなメニューのトレイを差し出せば、それは嬉しそうにテーブルにつき、それでも手を合わせての“いただきます”は忘れない船長さん。育ちが良いんだか悪いんだか、頬の形が変わるほど詰め込む食べっぷりはだが、見ていて気持ちの良い健啖家っぷりには違いなく。
「ほら、落ち着いて食べなさいよ。」
「そうだぞ、逃げやしないし誰も取りゃしない。」
「むごもご…だってよ。」
 よくもまあそんな量をという“1口目”を、それでも十分味わっただろう丁寧な咀嚼の後にぐぐんと飲み込み、
「出来立ての美味しいうちにさっさと食べねぇと、なんか勿体ねぇじゃんか。」
 母ちゃんがいつも言ってたもんと、そうと言って“なあ?”とこっちへ話を振る。翡翠の眸が、今は屈託なくの丸ぁるく開いており、愛嬌たっぷりのお顔に釣られ、
「まあ作った側としちゃあ、味わって食べてくれてんなら本望だが。」
「ほら♪」
 今のお返事のどこが“ほら”なのよと、ベルの容赦ないツッコミが入ったが、それでも皆しての和気あいあい。こうしていると、どこにでもいる十代の小僧たちにしか見えないのにねと、銀髪痩躯のお兄さんが苦笑を洩らす。

  『…そうさな。こんな野郎があんな高額の賞金首だとぉ?って、
   その金額が跳ね上がるごとに、ぎょっとして眸ぇ剥いちまったもんだよな。』

 今はもう伝説になりかかりの、麦ワラの海賊王の話をするたびに、父が何とも言えない苦笑をしていたのを思い出す。その主力たちの頭数も両手で収まるほどならば、特別誂えの武器や船があるでなし。殆どその身のみの陣営にての頼りない一団だってのに、どんな窮地に呑まれても屈せず、巨悪を叩いて前進し続けた。正義の味方かと問えば、そんなでもなかったかなと苦笑をし。連中だって相当にご法度破りだったしと付け足して。ただ、

  『自分がやったと公言して、気持ちの良いことしかやらなかった。
   そんな痛快な、けれどそうそう簡単じゃあないものにばかり、
   毎度 最悪な格好で関わっちまう、何とも要領の悪い奴らだったかな。』

 噂や何やではなく、直に接して判ったことであり、そして。そんな奴らなのが、口惜しいが羨ましかったかなと。自分は怨嗟の塊になってでしか居られなかった海を、それは爽快な顔をして渡ってった彼らのこと、そりゃあ懐かしそうに語ってくれた父であり。飯どきには肉の取り合いで掴み合いのケンカまでする、まるで子供だってのに、命を粗末にするなとか、生きてりゃ少しはマシな明日だって来るさねと、優しいこと言って背中をやんわり叩いたり、どうどうと宥めちゃあ押してくれもしたとは、叔母が擽ったげに語ってた話で。

  「………。」
  「フレイア? どした?」

 何だか感慨深そうな顔になり、ふっと何処でもない虚空へと視線を送ってた彼だと気づいてのことだろう。坊やたちが案じるような声をかけてくれて。
「ああ、いや。大したこっちゃねぇさ。」
 小さく笑い、お代わりはどうだと話を振れば、は〜いと挙手が上がって船長さんが嬉しそうにお皿を差し出す。相変わらずよく食べるわねぇ、育ち盛りなんだ、それにしちゃあ背丈が伸びないが、うっせぇな、ちょっと2センチ伸びたからってよ、あ・そうなんだ、何か目線が高くなったなぁって思ってた。ワイワイガヤガヤ賑やかな坊やたちに再びの苦笑をし、船窓の向こうへと視線を放るフレイアで。

  “…あん時に煌めいたのは、秘石だと思ったんだがな。”

 先日の騒動のおり、海王類を踏んずけた次の瞬間に、少年の身をくるんだ覇気の風。加速で生じた以上の“圧”の中心となっていた彼の、こっちからは残念なことには後ろ姿しか見えなんだけれど。立ち向かった先の船の舳先、瀟洒な飾りの女神様の額に据えられた、月を模したものだろうバックルを、一瞬舐め上げた青い光があったのを、見逃さなかったフレイアでもあって。陽光の反射にしては、そんな装飾品なぞ身につけていない彼だのに…と思えば。それじゃあ、一体何が光ったのか。

  “目の付けどころは悪くないはずなんだがな。”

 確信がなかなか固まらず、しかもその上、一緒にいてどんどんと、その奥の深さに引き込まれるよな子たち揃いと来てはねぇ。新しくカツレツを挟んだサンドイッチ、さくりと切り分けつつ、困ったもんだという苦笑が止まらぬ、銀髪痩躯のお兄さんだったそうである。



  〜Fine〜 07.2.22.


  *カウンター234,000hit リクエスト
     レイヤ様
      『新海賊王伝説設定にて、ルフィたちの強さを知る人とのお話を』

  *無茶苦茶お待たせしてすみませんです。
   この子たちのお話も、何だか久し振りですよね。
   伏線がなかなか生きて来ないのでと投入したフレイアさんだったのですが、
   意味深な登場をした割に、話が続かなくちゃあ意味がなく…。
   今度こそはの新しい伏線を張ってみはしましたが、
   こんなお話でいかがでしょうか。

ご感想などはこちらへvv**

 
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